昔と今を楽しむ町家ステイ。
臨水背山とアレックス・カー
宇多津の旧市街地─通称“古街”には、10年ほど前にできたユニークな2棟の宿があります。
古い家屋が残る美しい町並み、中世から続くその歴史、今も根付いている暮らしの中の習慣。それらを未来につなぐ意志の象徴として、また、まちの外の人にもその魅力に触れていただく足がかりとして、古街にある町家を改装して泊まってもらおう。宿は、地域を愛する人々のそんな思いから生まれました。
宿をプロデュースしたのは、アメリカ人の東洋文化研究家、アレックス・カー氏です。徳島県山間部にある祖谷地域で、ずっと空き家だった茅葺きの民家を宿泊施設「篪庵(ちいおり)」に改修し、新たな価値を創造した事でその名を知られます。
アレックス氏プロデュースのもと、宇多津の町家は、建築当時の姿を保ちながら、快適な現代的居住性も備えた空間へと変身。古きものと新しいものが混在する、不思議に心地よい町家ステイを体験できる場になりました。
宇多津のように、海に面してまちが広がり、背後を山で囲まれた豊かな土地を、風水思想では「背山臨水(はいざんりんすい)」と呼びます。この言葉から、2棟の宿は「臨水」(りんすい)「背山」(せざん)と名付けられました。
アレックス氏が茅葺民家の「篪庵(ちいおり)」を語るときに、使う言葉があります。「篪庵は家であり、私たちの夢」。親しい人たちとの談話が生まれる場であり、その灯が一棟からまた一棟へひろがり、そして、健やかなコミュニティが育まれて、将来に渡って絵画のような美しい風景が続いていく。そんな姿を思い描かせる言葉です。
まさにこの「古街の家」も、宇多津の人々にとっての親しみのある拠り所の家。そして、お寺の並ぶ山に囲まれ、眼前に瀬戸内海がひろがるこの小さな街は、同時に、初めて宇多津を訪れに人にとっては、夢の世界を見させてくれるような素敵な場所なのです。