乃木将軍の住まいを移築した部屋で、
歴史に思いを馳せ、庭を愛でる
<通な料亭の楽しみ方をお教えします>
「寿美久満」名物、グリーンピースのあん入り押し抜き寿司を一度食べてみませんか。予約時に指定すれば、会席コースに押し抜き寿司を組み入れてもらえます。また鰆の押し抜き寿司弁当や寿司単品の販売も行っています。弁当は3日前、寿司のテイクアウトは前日までに予約してください。
「寿美久満」は、明治の始めに「炭屋」の名で宇多津の地に創業した130余年続く老舗料亭です。昭和16年に現在の場所に移転して旅館として営業していた時代もあり、「炭熊」さらに「寿美久満」と屋号を変えながら、暖簾を守り続けています。現在、伝統の味を受け継ぐのは七代目亭主の住野弘宜さん。女将の住野君江さんは、心のこもった上品なおもてなしをしてくれます。訪ねるとまず驚くのが、凝った造りの広々とした玄関。特別な日の食事へと向かう気持ちを、贅沢な空間が高めてくれます。時代を感じる長い廊下を進むと、大小の個室があります。中でも赤い壁が印象的な「乃木の間」は、特に多くの人々に愛されて来ました。丸亀京極家が所有した建物の一部が、陸軍第11師団の初代師団長として赴任した乃木希典の仮住いとして善通寺に移築され、さらに今の場所に移されたと伝わるのがこの「乃木の間」。窓の外に広がる緑濃い松のお庭を愛でながら、香川県の西部地域の歴史に思いを馳せる、ここだけの時間が流れます。
会食前にここでもひとときを過ごしたくなる立派なエントランス。取材にうかがった時は「うたづの町家とおひなさん」のイベントに合わせて、女将と娘さんが持つ2つのおひなさまが飾られていた
広々としたお庭の景色に、目を奪われる
料理は、四季折々の瀬戸内の食材をふんだんに使った、宇多津らしいご馳走が並びます。宇多津の料理は甘さが特長で、他所で修行した料理人も、宇多津で店を開くと必ず甘く変わるほどの土地柄。「寿美久満」は、ずっとその味に寄り添っています。「寿美久満と言えば、この料理」と言われる名物の押し抜き寿司は、その象徴ともいえそうです。四角い寿司の真ん中に入っているのは、グリーンピースでつくった自家製のあんこ。あんもち雑煮を好む香川においても驚きの珍品です。口に運ぶと、酢めし、上にのった鰆、エビ、でんぶと、あんこのバランスは見事。また食べたい、と記憶に残る味になるはずです。甘い寿司を探求するなら「おから寿司」もおすすめです。醤油と砂糖で煮たおからをすし飯に混ぜ、半身のキスをのせてにぎる、こちらも希少な寿司です。
押し抜き寿司付きミニ会席。料理は、春の鰆、初夏の小鯛、冬の牡蠣や車海老など四季折々の瀬戸内の海の幸が使われる(写真はイメージ)
変化の多い時代、変わらぬ伝統を守るにはきっと多くの努力が求められるはず。けれどそんな苦労をものともせず風格を保ち続けるのが、七代続く寿美久満らしさ。宇多津の古い町並にあり、いつでも凜としてそこにいてくれます。