「古街の家」からから歩いて1分ほど。一本松が印象的な小さな社を曲がったところに「Chiiori Utazu Branch/ちいおり宇多津ブランチ」があります。古民家宿の管理と運営を含め、地域活性に関わるさまざまな仕事を行う株式会社ちいおりアライアンスの宇多津の拠点です。
「臨水」「背山」と同様、町家を改修した「Chiiori Utazu Branch」。
廊下から路地が見下ろせる2階は、体験や会食イベントやの会場となる2間続きの和室。
運営しているのは、移住者で代表の村松さんと宇多津町出身の玉井さん。Chiiori Utazu Branchにはふたりの好きな家具や古道具、絵画が並び、どことなく友人の家を訪ねた時のようにリラックスできます。
株式会社ちいおりアライアンス代表取締役の村松享さんと、玉井幸絵さん。
宇多津の歴史や、日本文化、旅に関する書籍が並ぶ本棚の上に、ふたりのお気に入りの小物も並ぶ。
小さな台所もあり、かわいらしいキッチンツールがにぎやかに並ぶ。
「立ち寄ってくれた方とは、せっかくならゆっくりお話ししたい」と、お茶を出したりもしている村松さん。学生時代は、アメリカでインテリアデザインを学んでいたそう。その頃は、日本文化には、ほとんど興味もなく、まだ自分が見たことが無い世界、異国のものや、西洋からやって来るカルチャーやトレンドに心が躍るばかりだったそうです。けれど実際その異国に自分が立ってみると、自分にはどんなルーツがあって、どんなアイデンティティを持っているかということの大切さに気付かされたといます。
宇多津や祖谷のことなど、まちについて語りながら、村松さんがのんびりお茶を淹れてくれる。本日のお茶うけは、郷照寺門前の高橋地蔵餅本舗のおはぎ。
そして、帰国した村松さんは、自分の生まれ育った静岡が、かつて家具の産地であったことを再認識します。今でも伝統的な技術を持った職人さんがいることを知ると、思い切って2年半ほど「家具指物」の職人のもとで見習いをしました。
「やっぱり、今こうして日本で古民家や伝統的なことに係る仕事を続けてきているのは、家具づくりの見習いをした事が大きかったですね。毎日、木と向き合って、触って、臭いをかいで、鉋を研いで。それがあって、アレックスとの出会いにも繋がり、祖谷を経て、今、宇多津に魅せられているところですね」と、少し照れくさそうに語ってくれました。
玉井さんは古街のガイドツアーを行っています。古街には「一社九か寺」と呼ばれる寺社があり、街の背を取り囲んでいます。そんな古街の路地裏を散策すれば、ちょっとした哲学の気分も味わえます。また、実際に町の人がお住まいになっているお宅を訪ねる町家見学や、古街を抜けて田んぼの畦道を散歩するなど、小さな街の何気ない風景でも語りどころは尽きません。
玉井さんのガイドツアー。いっしょに歩くと、このまちの暮らしも歴史も浮き上がる。
「人の営みが永く続けられ、各時代の痕跡を残していることも街の面白いところですが、なんといっても暮らしやすく、今もしっかり現役であることが最大の魅力です」と玉井さん。宇多津で生まれ、一旦は町を出て、中国地方の山間部での建築家や芸術家との景観や環境形成プロジェクト、四国の辺境での観光まちづくり、などに関わった後にUターン。改めて宇多津の奥深さを再発見する日々だそう。
「青の山と寺社に囲まれたこの小さなまち自体が稀有な存在。ここで、育まれてきた穏やかな感性と港町精神を語り継いでいけたら…」と玉井さん。今や、Chiiori Utazu Branch は、地元の人や旅人も一緒になって交流できる、小さな町家のサロンのような存在です。気軽に立ち寄れば、村松さん、玉井さん、そしてたまたまそこに居合わせた人たちと自然に会話が弾みます。