臨水(りんすい)は、古街の中心にある町家を改修した建物です。明治元(1868)年に建てられ、日本の伝統的な建築様式である入母屋造りに風格が漂っています。砂糖問屋との関係もあった商家で、瀬戸物屋としてにぎわった後、昭和の時代にはタバコも販売していました。
路地の角に建つ「臨水」。飾り窓はタバコ屋時代の出窓の名残。「ここに活けて」と花を持って来てくれるまちの人も。
臨水には、土間、二室の和室、そして小屋裏を利用した寝室、そして洗面所とお風呂などがあります。
玄関を入ると、現代では珍しい土間が広がり、そこにキッチンとダイニングスペースを設けています。数人でも作業できる使い勝手のよいシステムキッチン。ダイニングの中心には、無垢の一枚板の大きなテーブルがあります。料理する時も食べる時も、土間で過ごすと、「食」を巡る時間は開放的で軽やかになります。
土間からは、2間続きの和室とその向こうの小さな庭が広々と見渡せる。
床の間と違い棚。ミニマムな空間の中に日本的な美が際立つ。
また杖を手に笠をかぶったお遍路さんが土間の格子戸の前を横切ることも。こんな光景は、まさに四国ならではです。
ガラス戸の向こうを、お遍路さんやまちの人が通る。「陰影礼賛」のほの暗い室内から見る、明るい外の気配が心地いい。
畳の間では、日本建築ならではの内装や建具を楽しめます。床の間のミニマムな空間デザイン、障子越しの柔らかい光、繊細な細工の建具たち。ただそこにいて落ち着くのはもちろん、150年も前の職人さんと会話をしているような気持ちになります。
欄間彫刻はぜひ両側から見て欲しい。弁慶の前後が彫り分けられている。
また、和室の奥にあるほどよい大きさの庭は、滞在の静かなひとときに寄り添います。浴室からも庭を眺められ、緑が旅の疲れをいやしてくれます。
現代的な浴室と洗面所は、明るく清潔。
寝室は、階段を上がった2階。立派な柱や梁がむき出しの小屋裏にあります。小さくてどことなく田舎を感じる、隠れ家や秘密基地のようで、大人も子どももワクワクさせられます。
小屋裏の寝室は、心地よく深く眠る場としても適している。
臨水は、滞在そのものが「旅」の目的になる宿です。今は非日常に見えることでも、かつては、それがごく普通の日常だったはず。ここでの滞在を通して、住まうことのエッセンスや哲学、手触りや記憶を、自分たちの日常にも持って帰っていただきたい。そんな空間です。