老舗の伝統を守りつつ、
料亭の価値を新たに創造する
<通な料亭の楽しみ方をお教えします>
「料亭 公楽」に行く時は、食事の前後に建物を細部まで見学してはどうでしょう。玄関の竹の装飾、場所によって素材や仕上げを変えた天井、欄間の装飾や、網代編みの襖など、見所いっぱいです。食事終わりに、亭主や女将に建築ミニツアーをしてもらうのも楽しそうです。
「料亭 公楽」は、築100年を超える数寄屋造りのお屋敷で、気品に満ちた料理とサービスでもてなしてれる、非日常の空間です。創業は、戦後すぐの1946年。初代亭主が現在の建物を譲り受けて料理旅館を開業しました。大阪で建築関係の仕事をしていた亭主は、時代の先端を走る風流人として知られた人物。資材も職人技も潤沢に投入して細部まで手を加え、建築のプロが見学にくるほどの建物に改修。焼け野原だった高松の復興事業、番の州工業地帯の建設工事など、宇多津に多くの人が集った時代を、洗練された雰囲気の中で寝床と食事を提供して支えたのです。
茶室だった場所を造り変えた個室は、入り口を狭く、あえて窓も小さめに。秘密の隠れ家にこもるような感覚に
現在の亭主・米崎彰洋さんは、旅館から料亭となった公楽を受け継いで20数年になる三代目。お祝い事、法事など「人生の節目の時間を公楽で」とひいきにしてくれるお客さまのために、日々料理の腕を磨き続けています。彰洋さんには、亭主となって以来の夢があります。祖父である初代亭主の時代のように、お客さまが集い楽しんでいたにぎやかさを、現代の料亭に再現したいというものです。その実現への相棒となったのが、妻で女将の加壽代さん。食べる事と料理が大好きな社交家です。
伝統的な料理の中に現代的なアレンジの料理も混じる会席料理。亭主が無類の甘いもの好きなのでデザートまで手抜きなし
ふたりはタッグを組み、新しい公楽をつくるさまざまな試みを行っています。そのひとつが「蔵カフェこうらく」。祖父が旅館横の蔵を改装して造った大広間とダンスホールが長く眠っていたのを、復活させた空間です。公楽のおすそわけ料理を気軽にランチで食べられるカフェは、オープンして16年。特に女性の心をがっちりつかみ、宇多津の町外からも人が訪ねて来ます。また、女将の加壽代さんは、ゲストハウス「Chiiori(ちいおり)」で、月に1回お弁当の提供もしています。特別な日の会食だけでなく、日常から食で地域に関れるはず、と料亭の女将像をアクティブに更新中です。亭主が次に計画しているのは、にぎり寿司メインの寿司会席の開発。宇多津には少ない江戸前のにぎり寿司を提供することで、地元の人も、徐々に増えている外国人観光客にも喜んでもらえる、と考えました。
2024年3月に開催された、寿司バーの会席料理
夫妻の息子である公楽の四代目候補は、現在東京で料理の修業中。近い将来、四代目も加わった公楽が、今までと違う料亭の形を見せてくれるかもしれません。